大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和35年(ラ)16号 決定 1960年7月11日

抗告人 鈴木輝子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は、原審判を取り消し、原審判書別紙「申立の趣旨」記載のとおりの裁判を求める旨申し立て、その理由として「(一)右「申立の趣旨」記載の除籍並びに戸籍中には、抗告人が、飯浦ワクリ(昭和二五年二月一〇日死亡)を母とする私生子として記載されている。しかし、飯浦ワクリは、抗告人の祖母であり、抗告人は、右ワクリの長女飯浦ハツノ(昭和三四年六月六日死亡)の実子であるから、前記戸籍等の記載は事実に反する。右のように事実に反する記載がなされるにいたつたのは、抗告人の母飯浦ハツノが婚姻の届出をしない大正一一年五月五日、抗告人を分娩したので前記飯浦ワクリが、抗告人らの将来を慮り、抗告人を自己の子として虚偽の出生届をなしたためである。(二)それで抗告人は、原裁判所に対し、事実に反する戸籍訂正許可の審判の申立をなしたところ、原審は、訴訟手続を経ないで直接なされた右審判の申立は不適法であるとして、これを却下した。(三)しかし、本件においては、抗告人の戸籍上の母ワクリも実母ハツノもすでに死亡しているのであるから、抗告人としては、親子関係存在または不存在の確認等実体的な身分関係の存否についての裁判を訴求し得る途を全く閉ざされているものである。かかる場合まで、右の如き裁判が得られないからといつて、真実の親子関係のないものが戸籍上親子とされたまま放置されなければならないいわれはない。抗告人が飯浦ハツノの子であつて、飯浦ワクリの子ではないこと、したがつて、前記戸籍等の記載が事実に反することは、原審における資料に照らして明白なところであるから、かかる事実に反する記載はよろしく訂正さるべきものである。」と主張した。

戸籍法第一一三条により家庭裁判所の許可を得て戸籍の訂正を申請し得る場合は、戸籍の記載自体により、その記載事項が法律上許されないものであることが明らかであるか、または、その記載に顕著な錯誤もしくは遺漏があるとき、及び、戸籍の届出に錯誤遺漏があつたため、その記載に錯誤遺漏を生じた場合をいうのであつて、その訂正すべき事項が軽微であつて親族法もしくは相続法上重大な影響を及ぼすべき虞のない場合に限つて許されるものと解するのを相当とする。しかるに、戸籍法第一一三条にもとずいてなされた本件戸籍訂正審判の申立は、その訂正を求める事項が法律上許されないものであることまたは錯誤もしくは遺漏があることあるいは錯誤遺漏による届出にもとづくものであることを理由としてなされたものではなく、かつ、事項が軽微なものではなく、これが訂正により親族法及び相続法上重大な影響を及ぼすことが明らかであるから、それ自体不適法として却下さるべきものである。

抗告人は、原審判は不真実の公簿の記載を是正する途を全くうばうものであるというが、本件記録に照らし現に生存するものと認められる佐野義春、穴沢ハツイ、青木ワイらとの間の戸籍上の兄弟姉妹の身分関係についてその不存在なることを確定し右に関連する不実の戸籍記載を是正することは不可能ではない(最高昭和二八年(オ)第一、三九七号、同三四年五月一二日判決、最高判例集一三巻五号五七六頁参照)のであるから、この点は格別懸念する必要のないものであり、これをもつてしては右の判断を左右する理由とするには足りないものである。

してみると、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 鳥羽久五郎 裁判官 畠沢喜一 裁判官 桑原宗朝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例